「“金虫食い(きんむしくい)”と言えば、吉井さん」
会津若松市の飯盛山の麓にある大吉屋で、2代目としてお仕事をされている吉井さんは、周囲の人からそう言われています。

漆塗には、漆を何層も塗り、塗った漆を削ることで模様を出す“研ぎ出し”と呼ばれる技法があります。
研ぎ出しの中でも、吉井さんは“金虫食い”と呼ばれる48もの工程がある技法を得意とする塗り師さんです。
現在、金虫食いを行う職人さんは少なくなってしまいましたが、吉井さんは、伝統的な技で作品作りを行う数少ない職人の一人です。

そんな吉井さんは、なぜ漆塗りの道へ進むこととなったのでしょうか?
きっかけは、吉井さんがまだ中学3年生のころに遡ります。もともと吉井さんのお父さんも漆塗りの職人だったそうですが、吉井さんは、子どもの頃は漆に興味はなく、男4人兄弟であったため、家業は自分が継がなくても誰かが継ぐだろうと、進学することを考えていたそうです。

そんなある日、吉井さんにとって転機が訪れます。お父さんが突然お亡くなりになり、吉井さんは急きょ、父親の友人であった職人さんのもとへ弟子入りすることになりました。

「当時は職人になりたいというよりも、食べていくために職人の道を選びました。私は長男だったので、当時は家族を養わなくてはいけないという思いで必死でした。」と吉井さんは当時のことを振り返ります。